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もすこみゅーるだんでぃー

だらだら垂れ流しています
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第7話
「体は自分で洗えよ」
そう言い残してケイスケは風呂から出た。

袖が腕に張り付くのが嫌で新しい服に着替えた。
自分の洋服なんかが入っている段ボールを開けるとバスタオルを取り出した。
近くにコインランドリーがあるが、金を出してでも家に洗濯機を置こう。せっかく室内に置き場所があるのだから勿体ない。

ヒナに声をかける。
「バスタオルはここに置いたからな」

磨りガラス越しにヒナの返事が聞こえた。

部屋の片付けを再開した。
どうやってもわからないものは別として雑誌やエロ本の類は捨てることにする。
欲しければもう一度買えばいいという判断で処理する。

分別するためにゴミ袋が一部屋に4袋もある。
空き缶、ペットボトル、可燃ゴミ、不燃ゴミ。
生ゴミはない。あったら危険だ。いや、本当はあるのだが、余りにも見るに堪えない状況になっているので見なかったことにしている。
今朝の段階で一部のゴミで実験した結果分別に関しては、それほど厳しくはないようだ。

バスタオルを巻き付けてヒナが部屋に入ってきた。

「下着は?」
「脱いだのがあっただろ?」
「ううん。新しいの」
「あるわけないだろ」
「脱いだの着るの気持ち悪い。あれ2日つけてるし。なんか臭いし」
「知らねえよ。そこまで面倒は見きれない」
「じゃあ、買いに行く」
「ちょっと待て、あの格好で買いに行くのか?」
ケイスケはヒナの短いスカートを思い出していた。
あれを下着も着けずに?
「あれしか服ないもん」
ケイスケは天井を仰ぎ見た。
降伏せざるを得ない状況は間違いなかった。

「サイズは?」
「えーと、80のB」
「下だけだ。上はちゃんとフィッティングしないと形が崩れる。それにそれは嘘だろ」
「……スエットある?」
ヒナは話題を変えた。
「あるけど?」

ぶかぶかのスウェットを着てヒナはケイスケの自転車の後ろに乗っていた。
まだ少し濡れている髪の毛を風になびかせながら、目を細め心地よさそうにしている。
久しぶりの二人乗りでペダルを必死にこいでいるケイスケは、もう汗だくだ。
しかも、久しぶりのことだけに必要以上にバランスに気を遣っている。

「気持ちいい」
「そりゃ、ようござんしたね」
「でも、なんかすーすーして微妙。下着がないからかな?」
「そりゃ女物のSでも入りそうなおまえが、男物のLを着てるんだからな」
「ねーおまえって止めてよ。ヒナって名前があるんだから」
「じゃあ、俺もケイスケさんと呼べ」
「ケースケー」
「呼び捨てかよ」

二人で笑って2キロ先にあるイトーヨーカドーに行った。
結果として彼は重労働の挙げ句下着を2揃えと洋服を買わされた。
そして追い打ちをかけるようにヨーカドーの裏にある映画館で映画を奢らされた。

掃除は中途半端のままで、一体自分が何をしているのかケイスケにはわからなくなっていた。

つづく。
| 彼女とぼくたちと | 23:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
第6話
「お目覚めかい? 生憎コーヒーは入れられないよ。水はダメだし、そもそもコーヒーがない」

タバコを燻らせながらケイスケはそうヒナに言った。

「お風呂」
「ぴかぴかにしたよ。入るかい?」
「うん」

ケイスケは給湯器のスイッチを入れてキッチンを後にした。
キッチンの脇に浴室の扉がある。
間取り1Kではこんなところだろう。

ただ、バストイレが別というのはありがたい。
とはいえ、今すぐトイレに入りたいと思うわけではないのだが。

すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
ケイスケは新しいタバコに火を付けてゴミの山に囲まれていた。
缶コーヒーの空き缶を灰皿代わりにしている。
高校時代からコウゾウのすることは何も変わっていなかった。

「おじさーん」
「どうしたー」
ゴミ溜めから声をかける。

「あのねー。シャンプー」
「あるだろ?」
「うん。でも、これ嫌いな臭いなんだ」
「贅沢言うなよ」
「ハーバルエッセンスがいい」
「……おまえは運がいいよ。おれもその香りは好きだ」

ケイスケは自転車で近所のドラッグストアに行った。
洗剤の類とシャンプーや生活に必要なものを買い込んでドラッグストアで1万円以上の買い物をした。ユニクロで一人で3万円くらい買うバカバカしさになんとなく似ているような気がした。

一人にして大丈夫か不安だったのでケイスケは自転車を飛ばした。
家に帰るとヒナを呼んだ。返事がないから不安になった。
案の定ヒナは浴槽に沈みかけていた。
そのヒナの脇の下に手を入れて引っ張り上げる。

「大丈夫か?」
どこかまどろんだ目つきでヒナは文句を言う。
「おそーい。寝ちゃったじゃない」
「おい、大丈夫か?」
「うん。大丈夫。おじさん濡れちゃったね」

肩をすくめながらケイスケは「そのうち乾くさ」と言った。
「濡れたついでだ。頭洗ってやろうか?」
「うーん。じゃあお願いします」
ヒナは裸体をさらけ出したまま、湯船から首だけをすっと出した。
ケイスケは昔別れた女のことを思い出していた。
真冬のある日別れた女を。

全体的に細いヒナのあごはすっとしている。
緩やかに女になりつつある顔立ち。
少女と女のバランスが上手く取れていないように見えた。

「なー何歳だ?」
「17。おじさんは?」
「29」
「あ、じゃあ蛇だ」
「ああ、そうだよ。少し凹むな。しかも、おまえ平成生まれか。」
「そうそう」

買ってきたばかりのシャンプーを手に取り髪の毛に馴染ませる。
「傷んでるな。ちゃんと手入れしろよ」
「じゃあ、切って」
「ざんばらになるからダメだ。ちゃんと美容院に行け」
「お金無い」
「親に貰えよ」
「……」
「?」
「……」
「え? まさか。ごめん」
「勘当されちゃって親から貰えませーん」
「は? もう、帰れよ。おまえ。心配して損した。大体無断外泊だろ。いいのか」
「いいの。いいの。勘当されてる身分だから。それよりすっごく気持ちいい。寝ちゃいそう」
「あのな……」
ケイスケはなんだか何を言っても無駄な気分になった。
そして黙って頭を洗い続ける。

若いと言っても十分に魅力的なはずの裸体は、どういう理由か情欲の対象にはならなかった。
もしかするとバスルームはケイスケにとって神聖な場所に変わってしまったのかもしれない。欲情することが許されない場所になってしまった。
ある種のトラウマのようなものかもしれない。

水中で揺らめくヒナのほっそりとした体がどこか痛々しく感じられ目を背けた。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 07:07 | comments(7) | trackbacks(0) |
第5話
ケイスケは片付けても、片付けても、片付かない部屋にイライラし始めていた。
それほど気の短い方ではない。
むしろのんきとさえ言える。

部屋のゴミはゴミか重要なものかを分ける所から始まる。
家主不在だと紙の類は捨てにくい。
書類かどうかの判断を迫られる。

そのため紙は雑誌以外のものを一箇所に集積することになる。
コウゾウの部屋に転がっている会社の関係書類なんぞ重要なものはないと分かっていながらも、本人の承諾なしに捨てるのは憚られた。
そのため思いの外作業が捗らなかった。
それがイライラの原因だった。

トイレと浴室は想像以上にダメージが少なかった。
それもそのはずで、トイレと浴室はそれほど使われていないのと、半年前に来たときに一度完全に掃除をしたからだ。
コウゾウは3日くらい風呂に入らなくても平気な人物だ。
まず、本人がその手のことを気にしない。
肉体労働をしている割に汗をかかないのと、体臭がきつくないので、3日くらい入らなくてもあまり変化がない。実際下着と服を毎日替えていればそれほどわからない。

しかし、ケイスケはそれを嫌った。
兎に角毎日風呂に入れる。
なんとなく不衛生な気がして嫌なのだ。

それもあって肌の直接触れる部分は兎に角最優先で衛生的にした。
おかげでダメージが少ない。

キッチン回りは憂鬱にさせた。
まず、一体いつから使われていないのか開けるのも怖い冷蔵庫。
ゴミ屋敷第1歩はその日暮らしである。
その日必要なものを買うことで冷蔵庫を使うことが無くなる。
それと食事がコンビニなどの弁当になるとゴミが増える。
パックジュースで済ませるから長期の保存をする気がない。

その場で必要なものを必要な分だけゴミが出る方法で買う。
それだから、ゴミがたまる。
それを面倒くさがって捨てないからコンビニの袋に詰められたゴミが増える。

シンクもいつから使われていないのかわからない。
そこにはとりあえず、何もないように見えるが少し近寄りたくない気もする。
冷蔵庫の回りもゴミだらけだ。

正直これでゴキブリが出ないのが不思議でならない。
むしろゴキブリでさえ住めない生態系なのだろうか。
ケイスケはぞっとしながらも、片付けをしていた。
ゴム手袋の中は汗でぬるぬるして気持ち悪かった。

だが、思いの外キッチン回りは大きな半透明のゴミ袋が沢山あるだけで、片付けるのに手間がなかった。
冷蔵庫の中も生ものは運良く振るとカラカラ音のする玉子くらいなものだった。
水分が無くなり中の黄身と白身が乾燥しきっているというものだ。

賞味期限が数年前で切れている調味料の中に黒ずんだ何かを見たのは気のせいにした。
キッチンの回復には少し時間が掛かるだろう。
使われていないから正常化するにはフライパンや鍋その他一式を購入する必要があるのと、水道には浄水器を付けた方が良さそうだった。
まず、赤さびが出た。
長期間使用されていないので仕方がないが、それでも普通に使えるとは思えない。
水は流しっぱなしにした。ただ、時々止めたり出したりする。
緩急を付けてまともにすることに心がけるつもりだった。

お昼近くにガス会社の職員がやってきてガスが使用できるようになった。
ヒナは相変わらず眠ったままだ。

水回りのチェックは大抵終了した。
掃除もほぼ終了。
とりあえず、ゴム手袋を外してべたべたする手を洗った。

きれいにした台所でタバコを吸う。
そこで換気扇が異音を発することに気がつかされた。
「直さないとダメだな」

換気扇を切って振り返るとヒナが立っていた。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 07:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
第4話
どこ?
ヒナが目覚めて最初に思ったことはそれだった。
頭が割れるようだ。
そして何よりも自分が臭い。
それが何より嫌だった。

ベッドの上に男が寝ている。
足下を見ると寝袋に入った男がいる。

制服の乱れはない。
というか、元々乱れているのでいまいちわからない。
何もされていない?
考える度にズキズキと痛む頭を押さえてヒナはゆっくりと仰向けに倒れた。

見知らぬ天井がそこにある。
カーテンの隙間から朝日が少しだけ差し込んでくる。
埃に乱反射しているのがわかる。

「あ、チンダル現象」

そうつぶやいて再び深い眠りに落ちた。

ヒナが眠りに落ちてすぐに目覚ましが鳴った。
その目覚ましを切ったのはケイスケだった。

ケイスケが寝袋から這い出ている間も、コウゾウは目を覚ます気配がなかった。
ヒナが起きるのではないかと思ったが、パンツをむき出しにしたままぴくりとも動かなかった。
ケイスケは目覚ましを切りながら、ヒナのスカートを適当にもどして下着をかくした。
足でコウゾウの脇腹をつつきながら、あくびを堪え「仕事だぞー」と言い続けた。

「あと5分」

学生時代からのコウゾウの台詞だ。
これが出て5分で起きたためしがない。
基本的にそれから30分は5分おきに「あと5分」を言い続ける。
少しだけ強めに踵を脇腹に落とす。

「ぐふ」

コウゾウがたまらず声をだす。だが、それでも目覚めない。
何度も蹴る。

「起きろー」
蹴り続ける。
「起きろー」
蹴り続ける。

「おはよう」

どうやら起きる気になったらしい。

のろのろと服を着替えコウゾウは「いってきます」と言って出て行った。
ケイスケは昨日のうちに買っておいたゴミ袋を広げて、分別しながらゴミを捨て始めた。
昨日の深夜も少しやっておいたが、どうにも1日で完全にキレイにするのは難しいと思えた。
とりあえず、ベッドをきれいにしてヒナをお姫様だっこしてベッドに寝かせる。
髪の毛が臭かった。

どの程度カラーをやっていなかったのか、中途半端に伸びた髪の毛は2色に別れている。カラーリングしている毛先は傷んでいた。
ばっさり切りたい衝動に駆られながら、自分が美容師でもなんでもないから、他人の髪の毛を切ることが出来ないのだと諦めた。

それ以前に本人の同意もないまま髪の毛を切るのは美容師にだって出来ない。
そんなことさえケイスケは気がつかずヒナをじっと睨み付けるように見ていたが、掃除をしなくてはならないことを思いだし、掃除に取りかかった。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 07:53 | comments(3) | trackbacks(0) |
第3話
寝ていたヒナの事を思って部屋には明かりを灯していなかった。
蛍光灯のひもを引くと夕闇に包まれていた部屋が昼間の明るさを取り戻したようだった。

「悲しくなるくらいに汚いな」
ケイスケは素直な感想を漏らす。
コウゾウはそれを無視してヒナの手の中にあるそれを見つめていた。

「ちょっと見せてもらってもいい?」
「うん。ヨシダさんは優しいから特別ね。本当は誰にも見せちゃダメって言われているんだけどね」

ヒナは躊躇無くそれをコウゾウに渡した。
それが何であるかは一目瞭然だった。
小麦粉ではない。

「これをヤマダに渡せって言われたの?」
「ううん。貰っただけ。雪の結晶みたいできれいだったから」

それだけの理由で渡すやつの気が知れなかった。
コウゾウの知る中で最も純度の高い覚醒剤のような気がした。
昔酷く荒れていた頃に何度かコウゾウは麻薬の類を見たことがあった。
それを使ったり売ったりしたことはない。
ただ、見せて貰ったことがあるだけだった。
その中でもぞっとするほど不純物が少ないように見える。

それが単に覚醒剤以外のものであればそれはそれでいい。
ただ、シンナー中毒の女の子が持っているのが、安全な粉だとは思えなかった。

「じゃあ、そのヤマダってのにはなんの用があんの?」
ケイスケがヒナに尋ねた。
「あれ? なんだっけ? どうでもいいや。眠くなって来ちゃった」
そう言うとヒナは眠りに落ちた。

「どう思う?」
袋の中の物体を見ながらケイスケはコウゾウに尋ねた。
「見た感じろくなもんじゃないな」

「この子の症状は?」
「多幸感が全面だから初期だろう。今なら戻すことが出来る」
「大丈夫なのか? 理由はわからんが薬に手を出すくらいの精神状況だぜ? しかもシンナーって原始的な。バツあたりできまるが普通じゃないのか? 若者なら」
「どうだろうな。流通経路から考えればトルエンなんかの方が楽だろうよ。子供でも有機溶剤のある場所なら手に入れることが出来るし」

「なるほどねぇ。で、どうするつもりだ?」
「どうもしない。出て行くまでは置いておくだけだよ」
「相変わらず面倒ごともなんでも受け入れるなぁ。感心するよ」
家主の決めたことに文句はない。
ケイスケは呆れた顔をしつつも、度量の大きさに感心しつつコウゾウを見ながら、言葉を続けた。
「とりあえず、この子が臭いんじゃなくて、ゴミ溜めに寝ているから臭いんだってことがわかった。すげーこの子洗いたいんだけど」

コウゾウは頬の当たりをポリポリと掻きながら申し訳なさそうにケイスケを見た。

「……ガス止められてんだ」
「夏だからなー、水風呂で十分ってバカ! 思わずノリツッコミしたじゃねーか」
「ごめん」
「水は大丈夫だろうな?」
「それは大丈夫」
「わかった。督促状は?」
「無くした」
ケイスケの顔が引きつり出した。
「あ、明日午前休してガスが使えるようにしてきます」
「ああ、頼むよ」

まずは手近なところから片付けようと思ってケイスケはゴミ袋を探した。
それが徒労に終わることをすぐに感じ、ケイスケはゴミ袋を探すのを諦めてコンビニに買い物に行った。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 01:18 | comments(4) | trackbacks(0) |
第2話
コウゾウは少しだけ驚いた。
ケイスケはニヤニヤしている。

「随分と若いカノジョだな」
「違う」
「じゃあ、処理袋かなんか?」
「違う。なんだよ処理袋って」
「わかるだろ?」
「わかるけど。酷い表現だな」
「じゃあ、分かりやすく便所」
「おまえ。ウナギ代返せ」
「冗談だよ。この手の冗談が相変わらず嫌いだな」
「うるせー」

コウゾウはケイスケに事の顛末を話した。
ケイスケは呆れながらも、納得して女の子に近づいた。
そこで鼻をひくつかせる。

「この子臭いぞ。何日風呂に入ってないんだろうな」
「知らねーよ。今日会ったばかりだから」
コウゾウは不機嫌を露わにしながら答えた。
コウゾウの不機嫌を無視するようにケイスケは話しを続けた。
「しかし、知らない男の部屋で無防備なもんだな」

ケイスケはぐるりと部屋を見回す。

「とりあえず、俺はどこで寝ればいい?」
「もう寝んの?」
「いや、この子がこのままだった場合俺はどこで寝ることが出来るかなと」

この部屋でゴミのない唯一と言っても良いくらいの場所で少女は眠っていた。
ケイスケはキッチンの方に行くと通り道の上を少し片付けた。

「明日の朝そこに寝られると仕事に行けないんだけど」
「起こしてくれればいい。それから明日は掃除をするから」
「マジで? いいのか」
「いいも何も。俺が住むんだから。それくらいしないと居場所がない」

「ヤマダさん?」
いつの間にか起きた少女が声を掛けてきた。
「いや、ヨシダだよ」
「え? ここってヤマダさんの家じゃないの?」
「残念ながらここはこいつの家」
「じゃあ、あなたがヤマダさん?」
「なんで、そうなるかな。まあ、いいや。きみはなんて名前?」
「ヒナ」
「ヒナちゃんか。かわいい名前だね」
「そうかな?」
「うん。かわいいよ」
ケイスケは得意の愛想笑いを浮かべながらそう言った。
ケイスケの愛想笑いは別名「詐欺師の微笑み」と言われるくらいに人を安心させる力がある。元々大きくて少したれた目なので、穏和な表情はより穏和に感じられる。
本人もそれを知っているので、第一印象は抜群にいい。
薬で少しおかしくなっている女の子に通用するとは思っていないが、ケイスケはいつものように微笑んでヒナに尋ねた。
「ところで、ヒナちゃんはなんでここに来たの?」
「おじさんは嘘っぽいから教えない」
ケイスケはムッとしたが表情には出さず、やれやれといった表情を作る。
「ヨシダさんには秘密を見せてあげる」
そう言うとヒナはスカートのポケットから小さなビニール袋を取り出した。

コウゾウはそれを見て息をのんだ。

ヒナの手には白い粉の入ったビニール袋があった。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 06:07 | comments(3) | trackbacks(0) |
第1話
玄関のドアを開けたとき何かにぶつかったのを感じコウゾウは、衝撃を与えたものを見た。
そこにはセーラー服を着た女の子が足を投げ出すように座っていた。

「ヤマダさん?」

女子高生と思われる女の子はコウゾウにそう尋ねた。
コウゾウは女の子の目を見てすぐに薬の常習者だと判断した。
シンナーの類の常習者が持つ独特の焦点の定まらない目をしていた。

「残念。ヨシダだよ」
コウゾウは素直に自分の名字を告げた。
一瞬の後に彼女は自分の名前など忘れるに決まっているから本名でも問題はないと思ったからだ。そして、それは正しく彼女はぼーっとして、再び同じ質問をしてきた。

「悪いな。時間がないんだ。これから人と会うから……鍵を開けていくから家の中で休んでから帰りな」

そう言ってコウゾウは鍵も閉めずに女の子を残して出かけていった。

コウゾウの部屋は汚い。
独身男性で掃除をしないとこうなるという典型で、ゴミ屋敷寸前と言っても過言ではない。
盗まれて困るようなものを探り当てるのに辟易するくらいに床は足の踏み場もない。
カセットデッキの壊れているCDラジカセと映るのに少し時間のかかるテレビくらいが売り物になりそうで、CDは中身とジャケットがバラバラで元に戻すのに時間がかかるばかりか、ケースは大抵踏んだりして割れていたから目についても盗むことはないだろう。
そんな盗みに入って思わずそのまま帰りたくなるような部屋だから、長旅でもないかぎり鍵をかけたことなど無い。

だから誰が一時部屋に入っていてもそれはさほど問題ではなかった。
ある意味でコウゾウは大陸的なおおらかさを持っていた。
そんな性格ゆえにこれから会う人物を無条件で家に住まわせることを、躊躇無く決めた。
ケイスケから連絡があったのが1週間前だった。

「会社を辞めたから、しばらくやっかいにならせてくれ」
「え? ああ、いいけど」
「いいのか? そんなに早く決めて」
「うーん。困ってるんだろ?」
「まあな」
「じゃあ、仕方ないだろ」
「相変わらずだな」
ケイスケは苦笑しながらそう言うと、マンションの引き払いを含めて色々片付けてから1週間後にコウゾウの元に行くと言って電話を切った。
その後ケイスケから段ボール箱が2つ届いた。
それは必要最低限の衣類だけだった。
それが2日前の出来事で、車を走らせながら「盗まれたら困るもの」があったことを思い出していた。
ただそれも盗まれることはないだろうと楽観的に考えていた。

新幹線の停車駅にコウゾウはケイスケを出迎えた。

「よう。悪いな」
悪びれずにケイスケはコウゾウに言った。
「気にするな」
大きなショルダーバッグ1つだけを持ってケイスケは現れた。
「とりあえず、これからどうする?」
「そうだな。まずは飯でも食うか」
「失業したから奢ってくれ」
「当たり前だろ」
「そんなおまえが大好きだ」

コウゾウとケイスケは愛知の新幹線の停まる町で、有名なウナギ屋に入った。
昼食には少し遅くウナギ屋ものれんを仕舞うかどうかというような時間だった。

「うなぎなんて豪勢な。贅沢は敵だぞ」
「奢るんだから文句言うなよ」
「まったくだ。すまん」

注文してから捌き焼くので時間がかかる。
その間に近況の報告をした。

コウゾウはなんとなく女子高生のことを言いそびれた。
帰ったらいなくなっているだろうと思っていたからだ。
帰ってから笑い話にすればいいと思っていた。

「田舎に帰らなくて平気なのか?」
「ああ、てか、田舎じゃ就職は無理だろ。あんな北海道の田舎町だぞ」
「それもそうだな」
「てか、親に言ってないし。仕事辞めたこと」
「おい。それはまずいだろ。ちゃんと連絡しろよ。行方不明になるだろ」
「そうだな。ま、適当に連絡するよ」
「俺はおまえの両親が好きだし、世話になったから困らせるようなことは許さん」
「わかったよ。今夜連絡する」
「おう」

自動車を運転する気のないケイスケの為に自転車を買ったりしたので、家にたどり着いたのは夕方をとっくに過ぎて夜にほど近い時間になっていた。

「相変わらず汚いな。靴のままあがっても良いか? てか、キッチン暗いんだけど」
1Kのキッチンは玄関があり、そこの蛍光灯は全滅していた。
ある意味で廃屋に近い感じがしないでもない。

「わりー蛍光灯が切れているんだ」
「相変わらずだなぁ。明日は蛍光灯を買いに行くぞ」
「明日から仕事だ」
「じゃあ、買っておく」

キッチンを脱け部屋に入るとそこはごみ溜めのようだった。
その中で少女は眠っていた。

つづく
| 彼女とぼくたちと | 01:33 | comments(4) | trackbacks(0) |