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もすこみゅーるだんでぃー

だらだら垂れ流しています
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かぶった気がする

 朝、目が覚めると世界が歪んでいた。
当たり前のことだけど、コンタクトをはずしていたからだ。
寒くて目を覚ました。
震えるほど寒くて目を覚ましたのだけど、今日は2度寝ができるからそれも許せた。
寒かったのは隣で寝ているタカシが布団を奪っていたからだけど、昨日仕事が忙しかったから仕方ないか。
いやいや仕方ないとかじゃない。
タカシの悪いところだ。
布団を巻き込んで寝るからいつも私の布団はなくなる。
Hした後だとそのまま寝ちゃったりするから裸で寒いんだけど、癖は直せないよね。
しかも無意識だから。

でも、今日は休みにしたから、こうやって2度寝してみたわけで。
まさかの宅配便で起こされるとは思ってもみなかったけど。
2度寝の幸せを邪魔してくれたわけだが。

仕方がないのでタカシの家に置いてあるスウェットを着てぼさぼさの頭とノーメイクの顔で出た。
「香川さんのお宅ですか? お届けものです」
地区担当の宅配業者の男がイケメンだった。
もったいない。

いやいや。そんなことを思っちゃいけない。
しかも、スウェットの下は全裸だ。
乳首とか透けてなかったかな?
寒いと乳首たつじゃん?
わりとフィットしてるからばれるんじゃないかと思ったんだけど、意外と人って見てるようで見ていないからね。
こんなノーメイクの女なんか。
逆? 意外とそっち見てるかな?
男の名前だし見られたとしても大丈夫かな?
そっちの意味じゃないか。まあ、いいか。減るもんじゃないないし。むしろ増えたら嬉しいくらいだけど。

荷物を持って戻ると彼が眠そうに眼をこすりながらベッドの上で寝たままわたしを迎えてくれた。
迎えるというかしぶしぶ起きていたのかもしれないけど。

「ごめ……ありがとう」
わたしが誤られるより感謝されるほうが好きなのを知っているから言い直した。
よしよし。いい感じだ。
うっかりニコニコしたら、 両腕を広げるようにした。
タカシがそうするのは甘えているサインだ。
でも、それに逆らえない。
荷物を床に置いてタカシの近くに寄るとそのまま抱きしめられた。

これに弱いんだよなぁ。
本当にダメだ。
好きな気持ちが爆発しちゃう。

ダメ男なのに許しちゃうんだよなぁ。友達からやめろと言われても無理だ。
こんなに好きなんだもん。無理だよ。
抱きしめられてるだけでもやばいのに、キスまでされたら、もう何もできない。

なんとも言えない幸せそうな顔をしているんだろうなぁ。
顔が見えなくてもそれだけは自信がある。
根拠はないけど、わたしがいれば彼はきっと幸せなのだ。
わたしがそうであるように、タカシが幸せじゃないわけがない。
根拠はないけど、二人でいることが幸せなんだから絶対に幸福なんだ。

ベッドに戻ろうかと思ったけど、もう一人の彼が足下でうろうろしているのがわかった。
アビシニアンのキャラメルだ。
茶色いのでキャラメルと安直にタカシが名付けた。
センスの欠片もないが、当の本人が納得しているのか、その名前以外に反応することが、この家に来てからなかったのだから、仕方がない。

どうやら餌を欲しているらしい。
猫のくせに変なところで気位が高いのか、無理に起こそうとはしない。

あと何故かHをする時に限って姿を消す。
家のどこかにいるのだけど、何故かどこにいるのかさっぱりわからない。
まあ、それを気にしている余裕なんてなんだけどね。

キャラメルに餌をあげるためにタカシから離れると少し残念そうにしながら、直ぐにタカシは眠ってしまった。
仕方ないか。疲れてるもんね。

疲れてるなら無理しなくてもいいのに。

今さら言っても栓ないことかな。
こういうときのが盛り上がるんだよね。悪い癖で。

あまり食の太くないキャラメルは餌もそこそこにわたしの足元にすりよってきた。
食べないわりに野生は強いので、猫じゃらしで遊ぶと「ああ、猫なのだなぁ」と賢いキャラメルでさえ単なる猫に思える。
……もしかして、これも演技なの?

だけど、かわいすぎる。はー。猫飼うように進言してよかった。
うちはダメだけど、ほぼ毎日来るここならいいし。

なんだかんだでタカシとも上手くやってるみたいだし。

「おはよう」

大きな欠伸をしながらタカシは起きた。メタボ直前のお腹をポリポリ掻きながら。

キャラメルが少しだけ不機嫌になった気がしたけど、直ぐに餌を食べにいった。
……ホントに不機嫌なのかな?
嫉妬だとしたら凄くかわいい。

「よし。すげー腹減ったから飯食いにいこう」

そう言ってタカシはバスルームに向かった。
食欲より身だしなみを重視するからおっさん臭くはないけど、端々におっさん臭さが出るのは仕方ないことかな?

わたしの携帯が鳴った。
カヨコからだった。

シャワーしているタカシを無視して喋っていた。
2年前に結婚して旦那の実家に住んでいる一児の母だ。
そして無二の親友だ。

バスルームから下手な鼻唄が漂う。嫌いじゃない。
でも、子供が出来たら胎教に悪いから止めさせよう。

年が変わる前に会うことを約束して電話をきった。
タカシが調子っぱすれの歌を歌いながらバスルームから出てきたからだ。

入れ違いでわたしがシャワーを浴びる。

「あれ? 髭剃ったの?」
「あーなんかな。気分転換?」

似合っていたのに。別に髭フェチじゃないからいいけど。

シャワーを浴びてキッチリ化粧した。
毎度だけどクリスマス限定コスメをプレゼントされるからだ。
暢気にFF13をしながら待ってくれた。
たぶんそんなにお腹は空いていないのだろう。
気を遣ってくれているんだ。
ちゃんとわかってるよ。
いいのに。

でも、ありがとう。

「ごめん。セーブできないからちょっと待って」
「えー」
「マジで、ちょっとだけ」
「仕方ないな」

別にいいよ。
化粧待ってくれてたし。

なんだろね。
甘えすぎて怖くなるんだよ。
いつか嫌われるんじゃないかって。

ニコニコしてる顔が時々怖くなるんだよ。

好きだら優しさが怖くなるんだよ。
凄く好きでいてくれるのがわからなくて不安になる。わからないよね?
自分に自信がないから、いつでも笑ってるあなたに嫌われるんじゃないかって不安になるんだよ。
でも、わたしは怖がりすぎて自分から嫌われるようなことをしちゃうんだよ。
嫌われた時の言い訳のために。

セーブが終わって外に出た。
「ランチイタリアンしようか?」
「夜は?」
「俺が作ろうかなと」
「え? いいよ。疲れてるでしょ」
「ストレスがたまったときは、カタルシス」

この言葉からするときっと時間をかけてボルシチを作るつもりだろう。
ランチが洋食なのに晩御飯も洋食なんてね。
大好きなイタリアンの店でランチをしてのんびりとデートをした。
ウィンドウショッピングしたりお茶したりした。
材料を買い込んであとは家で彼が作る料理を堪能するだけだ。

二人で歩いていると当然彼の姿が消えた。

振り返ると少し遠くに彼がいた。
近寄ろうとしたら片手で制された。

「今まで付き合ってくれてありがとう」
「え?」

近寄ろうとすると「そこにいて」と言われた。
ああやっぱり終わりはあるんだな。
辛いけど仕方ないよね。

好きだから。
嫌われたくないから。

辛くなるのが嫌で先に諦めることを選んだんだ。
だから、嫌われてもあたりまえだよね。

「こんな俺に付き合ってくれてありがとう」
「ううん。タカシだからよかったんだよ」

タカシは視線を逸らした。
ごめん無理させてたよね。
いつだって。
……ごめんね。
でも、ありがとう。
最後だけどありがとう。
声にならないけど。ずっとずっと。

「じゃあ、この先もずっといてくれるかな。いてほしいんだけど。おれの仕事理解してくるじゃん。それって重要なんだよ」
「え?」
「わかりにくかったかな? プロポーズなんだけど……」

声も出ない。
何が起きてるのかさっぱりわからない。

「俺の仕事に関係するわけじゃないけど merry x'masじゃなくて、Would you marry me? とか……どう?」
「とか、じゃないでしょ」
「だから、返事言ってよ」
恥ずかしそうに彼が言った。

答えは決まっている。
クリスマスイブは別の誰かのために譲ろう。
その代わり残りの355日はわたしだけのサンタだ。

とりあえず、メリークリ●●ス。

| 妄想文庫 | 02:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
彦星
深いため息が漏れた。
こんな田舎町まで来て結局無駄足だった。

月曜日に休暇をとるのは非常に面倒だった。たいての場合取引先からの電話や、部内の先週の積み残しでバタバタする。
それに上司にも部下にも「ワーカーホリック」」と呼ばれている課長のプレッシャーに勝たなくてはならない。
連休なんて会社が与えてくれたもの以外にここ数年知らない。
なんとかワーカーホリックに白い目をされながら休暇をお願いしてやっと来たというのに。

「仕事のために幸せを捨てられないだけだよ」

我ながら臭いセリフだと思う。
同僚に「女のために出世を捨てるのか?」
と言われて思わず返した言葉だ。

その幸せもここにはない。
そりゃため息もでるよな。

大体休みなんか取る必要はなかったんだ。日中は相手も仕事しているんだから。
とはいえ、残業確定の日々で休みでも取らないとこうやって会いにくることだってできない。

もっとも今だって会えてないわけないから、まるで徒労としかいいようがない。
会社の前で待っていたけど、出てくる気配もない。ちゃんとフロアの階数を確認しておけばよかった。
会社の前でウロウロしているとまるで不審者だ。

それで仕方なく彼女のアパートの前に来たのだが、こっち方が不審者にしか見えない。それに気付くのにそう時間はいらなかった。

サプライズは忍耐とタイミングが重要だと改めて痛感した。
この町の店は21時前にほとんどが閉店する。仕方なく駅の待合室でコーヒー片手にぼんやりと時間を潰している。

彼女は40分かけて通勤している。
田舎の30分はことによっては1時間と変わらない。電車が来ないからだ。
1本逃すと遅刻が確定することだってあるだろう。
そんな田舎町に今いる。
もう俺が帰る方向の終電だ。
下り電車に比べて上り線は意外と早く終わる。

携帯を取り出す。

「今どこにいるの」

それだけを書いて送信した。
このままでは帰りたくない。

「電車に乗ってる。あとふた駅で着く」

いつもように短いレスがきた。
ぶっきらぼうで素っ気のない彼女のメールは時々不安にさせるが今では慣れたもので、おれの文章も彼女のそれに似てきている。

「どこかに出かけてたの?」

それに対してレスを送った。
少し待ってメールが返ってきた。

「うん。なんとなく休んであそびに行っちゃった。」

なるほど。
だからいないわけだよな。

「そうなんだ。気が合うね。俺もだよ」

そう書いてメールを送った。
それっきりメールが返ってこなくなった。
疲れているのだろうか。
こっちも疲れているから仕方がないといえば仕方がないか。

下り最終電車がホームに入ってきた。

自分の呼吸音が一番大きな音ではないかと思うほど静かな駅で、その静寂を破る音の化け物のようでもあった。

改札は一つしかない田舎の駅で、それでも5、6人は降りただろうか。
待合室から出る。

改札の向に彼女がいた。

「気が合うね」

俺を見つけても泰然自若して足を速めることもない。
たぶんこういうことに慣れていないのだろう。
まあ、それもかわいいんだけど。

驚いたのか。
うれしいのか。
その全ての表情が浮かんで、どれでもない表情になる。
思わず笑いそうになった。
笑うと顔を赤くしてテレながら文句を言うだろう。

横に並ぶとぎゅっと手を握られた。
照れ隠しだろう。
あまりにもかわいいので抱きしめそうになる。
人前でそういうことをされるのが苦手な彼女なので、ぐっと堪える。
ああ、やっぱり来てよかった。

「終電行っちゃったから泊めてよ」
たぶん言わなくてもわかってると思うけど、あえて口にした。
下りの終電がきたら上りの終電はないということを彼女は知っている。

そっぽを向いたまま彼女は繋いだ手に力を込めてきた。


人のふんどしで相撲をとるのが上手いだいです。この文章も人様の書いたものを男目線で書いたものです。

本当は最後に「このあとは違うところを握らせよう」とか書こうと思ったんですけど、やめました。さすがに男の心理が全部これでも……え? 違うの? 男って30秒に1回は考えているって聞いたんだけど。
だから、おいらは変態じゃないと思ったんだけど……違うの?

JUGEMテーマ:小説/詩
| 妄想文庫 | 23:29 | comments(2) | trackbacks(0) |
七夕は
Hがエコ仕様のだいです。息が上がる前に出るので、CO2の削減に効果がある……早いってだけのことだよ!

洞爺湖サミットなのでこんな出だしにしてみたんですけどね。
特に書くことがありません。

七夕なのに相変わらず雨とか、去年くらいですかね。晴れたのって。今年も空はみえないですよ。

「あーどーも。彦星っす。今年も曇りでマジわりい。てかさ、曇ってんのが普通だと思うんすよ。
だってさ、Hしているところ見られたくないしょ? とくに女子は? でしょ? でしょ?
天の川の上に一夜だけの橋が架かるんだけど、その上で速攻だよ。会うなりセ○クス!!!!!!!!
いや、男子は共感してくれると思うけど、まじぱねえくらい種袋パンパンっだての。
他の女としたら速攻でわかるとか言うから試したらまじで見破られてまじでびびった。
女の勘ってあなどれないっすよ。
だから、この日まで我慢してるんですよ。
1日しか時間がないし、てか、夜しか時間がない。
もう、そうなったら死ぬ気でやるしかない。蝉の一生みたいっすよ。セ○クスのためだけにこの日を待ちかまえて橋が架かった瞬間におれなんか全裸ですよ。
もう、速攻っすよ。
織り姫のこと裸にしようとしたら、恥ずかしがって「イヤ、人が見てる……」とかいうから、しょうがないから雲という名のカーテンをしているっすけどね。
でも、大してみんな見てないでしょ?
自分の性行為で必死でしょ?
七夕ってみんなそういうことするなんでしょ?
おれそうだって言われてすげー毎年我慢してきたんだよね。
ショーチョーだからって言われて、みんなのために我慢してくれって言われてさー。なんか政府の偉い人にっぽいのに?
おれもいっかいの牛飼いで終わる訳にはいかないじゃないすか。
で、ショーチョーってなんすか?
響きだけかっこいいからやってみたんだけど、意外とみんなのためとはいえきついよね。
てか、いっかいの牛飼いってライムじゃないすか?
かっこいいっすよねー。
自画自賛。おれのかあさん。35で初産。
で、おれが生まれたんっすよ。
え? ジョイマンみたい?
なんすか。それ。
空にいると全然情報入ってこないんすよ。流行も去年渋谷で七夕デートして以来だから全然わかんないんすよ。
去年は織り姫からメールで「たまにはイベントしたい(ハアト」てメール来たから、ちょっとおれも気合い入れて、デートコースネットで調べて、待ち合わせしたら、ぱねえ。マジぱねえ。
いつもおれ一人で牛と戯れてるだけだから、ぶっちゃけあんだけの人を見たの初めてだし。なんての? 渋谷アレルギーみたいな? 人多すぎしょ。
織り姫ギャルになりすぎていて全然見つからなくて、見つけたときにぱねえ怒られた。
そっちも見つけてないのに、んなに怒らなくてもねえ?
まあ、そんな感じで今年は東京タワーを見に行くことになったんすよ。
洞爺湖サミットで消灯するんでしょ?
ほら、東京タワーって消灯するとき一緒に見ると永遠に結ばれるっていうじゃないっすか。
織り姫がそんなことで喜ぶんなら行ってもいいかなーって思ったんすよ。
で、考えたらおれ達けっこう有名人じゃないすか。なんで、カムフラージュで曇らせておいたんすよ。
意外と頭脳派っすよね。おれ」

ということで、今年が曇りなのはちょっとしゃべり方がアレな彦星の計略によるところみたいです。

JUGEMテーマ:つぶやき。
| 妄想文庫 | 23:35 | comments(2) | trackbacks(0) |
おもいで
どんな人間にも忘れられない映画や音楽があるだろう。
芸術性が高いとは言えなくても、心に残るものはあるはずだ。

一青窈のハナミズキはなんとなく似たようなシチュエーションで別れた。
タイミングが良すぎてうっかり泣いた。
音楽で泣くなんて後にも先にもこの曲だけだ。

割と一青窈の声質が好きで聞く機会も多かったが、この曲がヒットする直前に別れて、追い打ちのようにこの曲が町のいたる所で流れていた。

自分が身をひいて別れることが相手の幸せに繋がるようにというような内容のその歌が、あまりにも似すぎていて、うっかり自分に重ねてしまった。
歌で人が泣く理由がわかる気がした。

結局は自分の境遇と重ねることができるかどうかということなんだろう。このときのボクの心境はといえば、きっとそれだったに違いない。
だから泣けたのだろうし、今でもその曲を聴くと心に何かが広がる。

他に好きな人ができたらしく、それに勘づいて別れを告げた。ボクに対する気持ちがなくなったわけじゃないだろうけど、ずるずるいけばダメになるのは間違いなかった。罵りあって別れるのなら、少しでもいい思い出を残して別れたかった。

ただ、逃げたいだけなのかもしれない。

悪く思われたくないだけかもしれない。

それが愚行だとしてもきっとそれをやめることなんかできはしないのだろう。
それが人を深く傷つけることだと気付きながら気付かぬふりをして、笑っている。
こうやって人を傷つけないようにして、存分に傷つける。だから、ボクは誰かに好かれている時でさえ不安でしかなたがない。傷つけた人を見て傷つくのが怖くて。

だから、彼女が去っていくときもただ見送るだけだったのだろう。手早くピリオドを打ってしまうことで傷つかないようにしていただけだ。

こんなことを思うのはきっと今見ている地上波の映画のせいかもしれない。
この映画も何回か地上波で上映されている。
ちゃんと観ていてもどうしてもまともに観ることなんかできなくなる。それはこの映画にまつわる思い出のせいかもしれない。

それは寒い冬の日で近所のレンタルビデオ店が半額サービスをやっていた翌日の朝だった。
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| 妄想文庫 | 00:03 | comments(0) | trackbacks(0) |
ロシア料理と地獄と
これといって凄く仲がいい訳でもない会社のバイトとロシア料理を食っている。
もちろん女だ。
少なくともこういう店で飯を食うとしたら女がいなければ無理だ。

どんな話しの流れでロシア料理を食うことになったのか判然としないが、おれがボルシチを作ったことがあるということが、ロシア料理を食いにいくという切っ掛けになったのだと思う。

職場からこれといって遠くも近くもない神保町にあるその女が過去に利用したことのあるロシア料理の店だった。
数年前のことだが美味かった記憶があるという。

一緒に職場を出るというのはさすがに抵抗があったから神保町で待ち合わせをする。
残業になりそうなのを回避して指定の時刻ギリギリに駅に着いた。

「おそーい」

「なんだよそれ。恋人じゃあるまいし」
そう言いそうになるのを飲み込む。
「部長に捕まりそうになってさ」
事実だが少しだけ誇張表現だった。

「まあ、いいか。じゃあ、いこう」
どういう理由かはわからないが、上から目線でそう言って彼女は歩き出した。
つられるようにおれも歩き出す。

神保町の駅からほど近い古い雑居ビルにその店はあった。彼女の記憶と微妙に食い違いがあったのと、一応グルメHPで打ち出した地図が微妙にずれていたので、2人で5分ほど遠回りをして目的の店に入ることになった。

古い建物にありがちな急な階段だった。
ワインやウォツカを飲み過ぎれば、階段を簡単に踏み外しそうなほど急な螺旋階段だ。
狭い階段をぬけると狭い玄関があった。

予約した名前を告げると「それでは女性からどうぞ」とバイトの女に中に入るように指示をした。
入り口は狭く女を先に中に入れなかったことを後悔した。
もっとも階段は道を譲れるほど広さはない。

予約するためにコースにしなければならないかった。
最低価格のコースにした。デートというわけでもない。
3500円のコースにした。
ボルシチ、ピロシキ、メイン、デザート、ロシアンティーの5品だった。
メインはこの店で三十数年変わらぬ味で定番となっていると書かれていたロールキャベツを選んだ。
相手は悩みに悩んでいる。
「で、何と何で悩んでいるの?」
人間は全部で悩むこともあるが選択肢を狭められると、不思議と自分から選択肢を狭める傾向にある。
「肉か魚か」
つぼ焼きと呼ばれるメインで悩んでいるようだった。
時間がかかるのが苦手だった。
2つ食べたいのならシェアすればいいと思い「じゃあ、どっちかにすれば残った方をおれが選ぶよ」と相手に告げると、そんなことはさせないといわんばかりに「海の幸のつぼ焼きにする。貝好きだから」とこっちの気遣いを全部潰してくれた。

一事が万事自分のリズムで踊ることが出来ないのは苦痛だ。それは人間関係においても同様だ。
人と人の関係には相手に対する思い遣りが必要だ。
それはステップを刻み続けるダンスに似ている。
ワルツでもチャチャでもマンボでも。
恋愛はダンスと同じで踊りつかれるまで情熱的に冷静に官能的に過ごすのがいい。
だが、この女ではダメだ。
ダンスには才能が必要だが恋愛には必要ない。
ただダンスと同じで相性の問題はある。
時折冷静さを欠かせられることもあるし、どうしようもないほど冷めることもある。
だから、彼女は恋愛の相手としては間違いなく向いていない。

最初のスプマンテを飲みながら、頭の奥の方でぼんやりとそんなことを考えていた。
ボルシチをすすって談笑している自分が別人のように思える。
杯を乾かす速度も上がっている。ボトルを選ぶことにした。記憶が確かなら白ワインが好きだったはずだ。

安いワインを選ぶ。
相手の1杯目はマンゴーのフルーツワインだった。
総合的な判断なら食事の味によって選ぶというよりは自分の好みを選ぶだろう。
「フルーティーな香りで酸味と甘味のある白ワインでどう?」
ボルシチに夢中になっている女に尋ねる。
「うん。それで」
せっかく選んでもこのありさまでは救われない。

そして、店は男に恥をかかせるか、男に華を持たせるか判断するなら、ワインの試飲は避けるべきだ。
スマートにやり過ごしたところで周りのテーブルからはやっかみの視線で見られる。日本人には無駄な所作のひとつだろう。
だが、ソムリエの視線はおれにテイスティングを促すような力がある。
相手が見ていることを意識せずにさらっと流せばいい。
「好きなタイプだと思うよ」
自分でも呆れ返るほど落ち着いたコメントをする。

イタリア産のマスカットを使った微発泡の白ワイン。テイスティングでさえ甘い香りが強く立ち上る。
カッツェやブラックタワーのような甘いドイツワインが好きだから個人的に好みだった。
度数は若干低く口当たりの柔らかさが危険な感じだった。
料理とそれほど相性がいいとは言えないが、好みのワインだから仕方がないだろう。

その白ワインには不向きなこの店のボルシチの色は美しかった。
クリームを溶くと特有のピンク色になる。それが美しい。
キャベツやその他の野菜はボロボロに肉も破片くらいしかなかった。
旨味も十分だ。よく煮込まれているのがわかる。自分の作ったそれがクズのようにさえ思える。
どうにも薄味になりがちなのは恋愛と同じで大胆に行動できないからなのかもしれない。

「ロシア人ってこんな美味しいものを食べてるんだよね。ずるい」
やはり感覚がずれている。
美味いがずるいという発想にはならない。
おれは日本人で良かったと思っている。
これだけの食事をNY以外で食えるとすれば東京くらいなものだろう。
もっともNYには行ったこともないのだが。

ピロシキ、メインと食べ、デザートを食べて締めのロシアンティーを飲んで店を出る。
春を迎えているというのに風は相変わらず冷たい。
マフラーをしてきて良かったと思う。

まるっきり酔っぱらっていないが、相手は酔っているようで足下が若干危うい。

その割には神保町より遠い御茶ノ水駅まで歩くことになったのは彼女の帰りが便利だという理由だけだった。
自分にとって便利でもなんでもない遠い駅に送っていくのは、紳士と言うより下心の表れだ。

結局どこかにあわよくばという期待があったのは間違いない。結局男というのは下半身で反応する生き物で世の常というものなのかもしれない。
蒔ける種は蒔くのが遺伝子情報なのだ。
そうやって自分を正当化する算段だけは上手くなる。

「じゃあ、明日」
駅に着くと相手を見送った。
笑いながら手を振って彼女は電車の中に消えていった。
そして電車もいなくなる。

彼女とは何もないまま別れた。
世の中そんなに甘くないってことだろう。

ふっと息を吐いてホームのベンチに腰掛けた。

空はホームの明かりで遮られて、星の光が遮断された漆黒の闇が横たわっている。

おれはといえば下心と酔った彼女の足下がおぼつかなく何度も胸が当たったことによって硬くなった下半身を抱え込みながら酔ったふりをして、1年ぶりのおっぱいの感触を思い出しては落ち着かせようとしていた。

「最終電車がまいります」

終電がやってきた。

行くも地獄残るも地獄。

JUGEMテーマ:小説/詩
| 妄想文庫 | 23:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
クリスマスプレゼント
JUGEMテーマ:小説/詩


白い粉雪もクリスマスイルミネーションも見えない。
ごま油と葱油の香ばしい臭いが充満して、床は油でベタベタするか、ツルツルするしかない決して衛生的とは言えない中華料理屋でカレシと食事をしている。

別に嫌いじゃない。
ここの餃子はどこで食べる餃子よりも美味しくて、生涯で会えるかどうかわからないくらいのいいものだった。
だからといって、クリスマスイブにそれはないと思う。

去年はフレンチの有名レストラン。
その前はイタリアン。
クリスマスらしいことをしてくれたのに今年は私の大好きな中華料理屋。
だから別に文句はないんだけど、ただ、なにもいつも行ける店でなくてもいいと思う。
どんな女子だってイベントごとのときはスペシャリティーが欲しい。
たとえ口では「何も無くていいよ」と言ってたって、ちゃんと何かをしてもらって気分を害する人はいないと思う。
結婚が間近で金欠で無理していたら怒るかもしれないけど、そうでもなければ普通に喜ぶだろう。

だけど、そんなこともないのにこの情況は素直に喜べない。
確かに彼は仕事も忙しい。この前役職も与えられてから引っ切り無しに残業をしている。過労死したら労働基準監督署に私が証人で出てやりたいくらいだ。
あ、もちろん彼には死んで欲しくないんだけどね。

でも、これはないんじゃないかと思う。
せっかくのクリスマスイブだと言うのに近所の中華屋というかラーメン屋で、餃子にワンタン麺でディナーなんてどう考えても大事にされてないとしか思えない。

さっきも言ったけど確かに彼は忙しい。だから、店の予約が微妙になっても仕方ないと思う。でも、それでも、やっぱりもう少しムードのある店にしてもらいたかった。
だって、せっかくのクリスマスイブ……はぁ。私もしつこいか。
こんな男でも好きになったら負けだもんね。
一体何が良かったんだろう。悪いところがない男に惚れるのが一番女にとって不幸だって誰かが言っていたっけ。
悪いところが無いから嫌いになれない。だから、ずっとその人のそばに居る。ちょっとした悲劇のヒロインなんだよね。

「この人私がいないとダメになる」

そんな思い込み。
ちゃんとその人のこと見てない証拠なのにね。相手のダメなところを見て自分が救うなんて思い上がりもいいところ。
自分が相手のマイナス部分に付き合うなんて自分の成長を押さえ込んでいるのにね。
でも、そうなっているときって意外と気がつかないのよね。それが正しいと思っているから。本当に笑っちゃう。

だから、今、目の前で肉汁とキャベツの汁で口の中を火傷しているかもしれない男を、本当に自分のためになるのか検分中なのかもしれない。

ビールを煽りながら口の中を冷ましている。
本当ならここはシャンパンかスプマンテ、カヴァだろうという気持ちを抑える。
フレンチ、イタリアンときたから、若干日本だと難しいかもしれないけどスパニッシュあたりでもいいだろう。テーブルの下で握りこぶしを作ったのは墓場までの内緒の話。

「クリスマスプレゼント欲しいんだけど」

そう言いながら彼はジュエリーボックスのような箱を出してきた。
これで喜んだら騙されたような気がするので、ぐっと堪える。
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| 妄想文庫 | 23:53 | comments(4) | trackbacks(0) |
イルミネーション
「なんかね。こうやってクリスマスに向けて周りが浮き足立つのがイヤなんだよね」

横に並びながらみなとみらいの夜景を見つめて彼女はそう言った。心底嫌いというよりは、どちらかというとなんとなく嫌いな食べ物を箸でよけているような、そんな雰囲気で結局「どっちでもいい」というニュアンスが含まれている。

だからなのか、みなとみらいのクリスマスツリーやイルミネーションを見たいから付き合えとクリスマスの1週間前に予定を入れられた。
オレに予定があったら諦めたのだろうか?
たぶん諦めていただろう。
別にオレじゃなくてもいいはずだけど、たぶん、他の誰かじゃダメなはずだ。

下心があるやつと一緒に見るのは面倒だったに違いない。だから家も近いし下心もないオレを選んでいる。ただ、それだけのことだろう。
ただし、オレの下心は0ではない。ただ、余裕で覆い隠せるだけのことだった。
そして、彼女は1人でここに来る気にはなれなかったから、選ばれただけだ。

タイプじゃないというよりは互いに一緒には長くはいられない関係だった。
無駄に軽くて内容のない会話をするオレと、ゆっくりと話し辛辣な内容の彼女では、会話が長く続かない。だから、本当に時々忘れそうになった頃になんとなく会って近況報告の類をするのが基本だった。

今回はイルミネーションが見たいというリクエストに応えた形になっている。
もちろんオレに恋人がいないからなのだが。
そうでもなければ、わざわざイチャイチャ地獄に足を踏み入れる理由など無い。
そう言いながらも、オレはこういうイベント事が好きだ。彼女がいう浮き足だった感じが好きだった。
ただ、それでもこの華やかさが独り身になるとまるで毒にでも変わったかのように思えてならなくなって、近づきたくなどない場所だったが、お誂え向きの風よけができてこうやって眺めることが出来ている。

「2年ぶり。去年は見れなかったからね」

大きな観覧車がゆっくりと動いているのを眺めながら、誰に言うわけでもなく彼女はそう言った。
「横浜に住んでいた男と別れたから見ていない」それだけのことだ。
ただ、そんな返答を求めていないのはわかっていたから、「観覧車は乗れないんだよなぁ」と呟いた。
「あれ観覧車じゃなくて時計なんだよ。知らないの?」
「マジで?」
「横浜に住んでるんだからそれくらい常識でしょ」
「埼玉県民に言われたら終わりだな」
「練馬区在住」
「似たようなもんだろ」
「まーね」
いつものように彼女の言葉で収束する。

2人で無言のままでしばらくゆっくりと動く観覧車を眺める。

観覧車だと思っていた時計が派手な電飾を見せつける。
花火のような電飾だった。
「ひゅー。どーん」
「花火?」
「そう」
「ふーん」
また黙り込む。
オレは言わなくてもいいことばかり口にするのが癖だった。
真剣に物事を捉えられるのが苦手で必ずまじめなことを言ったあとは、まじめにならないようにオチをつけようとする。それが癖になっていつでも冗談を言っているようになる。
格好を付けられない無様さがある。それが仇となって彼女とは思考をめぐらせている間に会話が止まる。
だから会話が続かない。

クイーンズスクエアのツリーは30分ごとにあるイルミネーションショーが終わりを迎えたところだった。
「もう少し早く来れば良かったな」
「そうだねー」
会話終了。
もはや自分が嫌われているのではないかと思う。

次にランドマークタワーのスワロフスキーのクリスタルツリーを見に行った。
「はー。すごいなー。これは」
「だねー」
会話終了。
どんどん会話が短くなっている。いや、もはや単語の域で短くなっている。

桜木町までぼんやりと歩いた。
動く歩道もなんとなく歩いてしまう。
桜木町の駅で彼女は帰るというので、思い切って訊いてみた。

「オレのこと嫌い?」
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| 妄想文庫 | 23:59 | comments(2) | trackbacks(0) |
東京タワー
※暇なときに読むべき長さなので、時間のあるときにどうぞ。

ミノルと東京タワーに行ったのはお互いの職場が近いこともあって近寄れなかったせいもあるけど、何よりもミノルの高所恐怖症が原因で2年前のことだった。
浜松町から眺めるだけで「あんなもんに登るのはアホのすることだ」とミノルは睨み付けるように言っていたっけ。

165センチのワタシと同じ身長で誕生日が3日違いの射手座のO型で、靴のサイズまで同じ。
ヒールを履くと身長が高くなるのを嫌うくせにスニーカーを履くと文句を言う。
ヒールの無い靴じゃスカートに合わないって。
何度もそう言ってるのにふてくされる。
スカートが好きなくせにヒールはダメじゃコーディネイト難しいよ。

付き合いだしたのはナンパだった。
もちろんミノルから。
彼の人生で初めてのナンパで最後のナンパだとちゃんと付き合うことを決めた日に告白してくれた。
あまりにも手馴れた感じだったから遊んでいるのかと思ったら、そんなことはなかった。ちゃんとつきあうのは初めてだって言っていたっけ。ちゃんとじゃないとしたら、何人女の子とつきあったのか聞いてみたかったけど、どうでもいいことだったから結局聞けずじまいだった。

一目惚れでここで別れたら二度と会えないかと思ったら、どうしても声をかけなくちゃならないと意を決して声をかけたみたい。
六本木のクラブで、そんなことを真剣に考えていたのはきっとミノルだけだろう。
本当かどうはわからないけど、そのときワタシにもミノルにも友達もいて、その友達もノリがよくてついついナンパにのってしまった。

そんな出会いだったけど、ミノルはワタシに対しては誠実だった。
向こう見ずの射手座だからついつい余計なことを口走って、よくケンカをしたし、意固地になって謝らなくて仲直りするのに時間がかかったけど、誰よりもお互いを理解していたと思うし、お互いのことを大事にしていたと思う。

東京タワーに登った2ヶ月前から彼の仕事が忙しくなって会えない日が続いた。実はそれは嘘だと知ったのは、東京タワーに登ることになった日のことだった。

1週間前「東京タワーに行こう」というメールが来た。
あれほど嫌っていたのになんだろうと思って聞き返すと「恋人と夜景を見に行きたいって言っていただろ。そいつを叶えてやろうと思ってさ」と返事が来た。
恋人なら2ヶ月もほっとかないっての。こう見えてもけっこうモテるんだよ。危機感が薄いんだから。

久しぶりに見たミノルはニット帽をかぶってブルーのジャケットを着てジーンズといういつもの微妙に若ぶったスタイルだった。
そして、穏やかに笑って「ひさしぶり」とワタシに言った。

「じゃあ行こうか」
「……うん」

2ヶ月ぶりにつないだ手は、力がなくて頼りないもので、まるで違う人の手を繋いでいるようなそんな感じだった。

「特別展望台には行けそうにないな」
展望台から夜景を見ながらミノルはそう言った。
「内股がぞわぞわして嫌な感じだよ」
握っていた手のひらにも汗がにじんできてるのがわかる。
冷たかった手はより冷たくなって、冷え性のワタシの手よりも冷たくなっていた。
「ううん。いいよ。ここで十分。ミノルの男気見せてもらったよ」
誇らしげに笑ってみせたあげた。
「わりぃ。この高さ限界だよ。てか、限界超えてる」
妙に饒舌で窓辺に近寄ってはおどけてみせる。無理のしっぱなしがよくわかった。久しぶりに会って楽しませようとしてくれるているのはよくわかるんだけど、そんなに無理しないでいいよ。ミノルと一緒ならそれで十分だよ。

18時に会って20時に東京タワーを二人で降りた。

1時間はワタシが全然動けなくなったせいだったんだけど。

それから2人で夜の芝公園のベンチに座った。
ぼんやりとした明かりの下で2人で座った。

「昔さ。おまえ言っていたよな。男は身勝手すぎるって」
「そんなこと言ったっけ?」
「ああ。ほら、男はいつだって女を守るためや、不幸にしないためとか、つらい目に遭わせないために黙ってどこかに行ってしまう。それは本当の意味で身勝手だと思うって。だからさ。ちゃんと言おうと思って今日は来たんだよ」
「……」
言葉に詰まった。何をどう言っていいのかまるっきり頭に浮かんでこない。言葉は沢山あるのに、ありすぎて喉の奥で詰まっている感じがする。呼吸も苦しくなるほどに。

ひどく長い沈黙が流れた。
それは自分がパニクっているからかもしれない。

「おれさ。あと1年ももたないんだ」

それは会ったときから感じていた直感にも似た感覚だった。
わかっていた。何かとてつもない病気に罹っていることくらい。
ニット帽なんか普段かぶらないし、その脇から見えていた髪の毛の量は明らかに少なかった。抜け落ちた感じがしていた。
「この人はもう戻ってこない人なんだ」
直感した。
それでもミノルはワタシの前に現れた。
たった一言映画を見ながら言ったことを実行するために。愚直すぎるくらいにまっすぐでワタシの言葉を大事にしてくれる人。
「どんなに辛いことでもちゃんと理由を説明してほしいの?」
「それはそうよ。だってある日突然原因もわからないままいなくなって、一人で苦しんでるのを知らないなんて不幸じゃない。好きな人ならなおさらよ」
「そんなもんかね? 男だって考えてやってるんだぜ」
「思いやりとかでしょ? そんなものはいらないの。事実がちゃんと見えないと気持ちの置き場所がなくなって、その場に佇んじゃうでしょ」
「そういうもんかね? じゃあ、おれが居なくなるときはちゃんと言うよ」
「居なくなるの? 一緒に長生きするんでしょ?」
「お、それプロポーズ?」
「バカ」
激しくて穏やかで大切な時間だったと今は言える。

東京タワーから見えたはずの夜景は全部にじんでいた。
1時間すみの方で泣き続けた。
ミノルは何も言わずにただ側にいてくれた。本当はそうしているのもつらいはずなのに。

「さよならを言うよ。意識がはっきりしているうちに」

1時間泣き続けてとっくに枯れ果てたはずの涙が再び堰を切って流れ出した。ミノルの姿がぼやけてゆく。東京タワーでは堪えていた声が漏れた。
どうやってもこの涙を止めることが出来そうにない。

「若いときの癌の進行は早いんだってね。知らなかったよ。ことによっては明日や明後日でもおかしくないかもしれない。まあ、これは大げさだけど実際似たようなもんらしい……1年はもたない。それが医者からの宣告だった……一緒にいれないかとおまえは言うかもしれないけど、病気が進行すると、おれは目の前の親しかった人でさえ誰かもわからなくなるんだよ。だから、そんなおれを見て欲しくはない。これもワガママだと思う。でも、嫌なんだよ。おまえにこれ以上惨めな姿を晒したくなんかないんだ。ワガママを許してくれ。いや、許してくれなくてもいい。いっそ見限ってくれればいい。おれにとって大事なのは、やっぱり自分なんだ。誰よりも自分なんだと思う。かっこ悪いところは見られたくないんだ」

知っている。ミノルは誰よりも自分をちゃんと見ている。自分から目を逸らさない。それがどれほど大変なことなのかを彼を見ていて思い知らされたことも何度と無くあった。
「自分を愛せないやつが何を言ってもそれは嘘だ。だからおれはどんなに惨めでも自分を好きでいる。それがおまえを好きでいることの自信になるんだよ」
酔うと変な理屈で愛を語る癖がある。でも、それは全部私に向けられた言葉だった。
酔わないと「好き」さえ上手く言えない癖に。
今は酔ってないのに饒舌でそれがなおさら胸に響いた。

「ごめんな。おれのワガママにつきあわせて。でも、これが……」

そこまで言って黙り込んだ。
続きはわかっている。
ミノルもワタシも頑固だからきっと彼は一歩も引かないだろう。
ワタシも本当は引きたくなんて無い。きっと彼は死ぬまでワタシのことをちゃんと認識してくれる。
でも、ミノルはワタシの言葉を守るためだけにワタシの前に現れた。
もう彼を止めることなど出来ないだろう。なんだかそれが悔しくて、悲しくて、彼らしくて心が押しつぶされそうだった。

ベンチに座ってからミノルはワタシに触れることが無かった。
それが自分の出した結論だから、もう触れることもしないで終わらせるつもりなのだろう。
わずかな心の隙をミノルは嫌がったんだろう。そしてワタシが揺れるのを防ぐために。良くも悪くもミノルのミノルらしいところが出ている。自分の弱さを知っているから決して自分が折れるようなことをしない。そして、他人が揺らぐようなこともしない。

だからとてもやさしい。悲しくなるほどやさしいんだ。

「ダメだなぁ。こういうときは……頭が白くなって言いたいこともうまく言えないな。結構いい台詞とか考えたんだよ。でも、いざとなるとダメだな。なんていうかおれらしいよな」
どんな顔をしてそう言ったのかは泣いていたからわからないけど、きっといつものように困ったような笑顔で言ったんだと思う。

泣きつかれていたワタシをタクシーに乗せてミノルは見送ってくれた。
涙でぼやけた視界の中で見た滲んだミノルが最後に見た姿だった。
そのあとは携帯を解約して賃貸していたマンションも解約してミノルの消息はしれなくなった。

ミノルが亡くなったのはワタシと会った日から3ヵ月後のことで、ワタシが知ったのはそれから更に3ケ月経ったころだった。
友人にも知らせず密葬で終わらせ、同窓会の知らせを作っていた友人が知りえた情報が回りまわってワタシのところに来たのが半年後だった。

あれから1年半。

今東京タワーにいる。

「通天閣が最高だと思ったけど、東京タワーもやりよるな」

あの日見ることの出来なかった夜景を違う男と見ている。

ミノル。あの日とは様変わりしてるけど、やっと見ることが出来るようになったよ。
あれから遠ざけていた東京タワーに来ることが出来るようになった。ううん。違う。ちゃんとお別れを言うためにきたんだよ。ミノルはきっとそうして欲しかったよね。忘れないよ。でも、ちゃんと思い出にするね。
前に進むために。

今の彼は凄く優しいんだよ。ちょっとバカなところもあるけど、ヒールを履いても問題ない身長差だしね。毎日笑っていられるのも彼が居てくれるからだし。
だから、安心してね。笑ってそっちで見ていて。この特別展望台よりも高いところから。

でも、ダメだね。
心のどこかで比べちゃうんだ……本当にあなたが一番だったんだって思っちゃうんだ。

大阪出身の彼は通天閣。
あなたは東京タワー。

ち○この大きさが。

(この台無し感のためだけに今日も生きています)
| 妄想文庫 | 04:50 | comments(4) | trackbacks(0) |
そっと
1通のメールがやってきた。

見覚えのない名前が表示された。
合コンか何かで交換したが結局メールを出さなかった女の子の1人だろうと思っていた。下手をすると変な勧誘かもしれないと思いながらメールを読むと違っていた。

「突然すみません。お元気ですか。実は相談にのって貰いたいことがあるんです。ベランダで話したことなんですけど、記憶していますでしょうか。もしお忘れでしたら結構です」

それほど強い印象ではないが、記憶している。
友達の家で飲んでいるときに居た女の子だ。
たぶん会えば判る。それくらいのぼんやりとした感じだが記憶はしている。
そして、彼女が言ったことも覚えている。
無駄に背中を押したことも。

おれは自分で何もかも諦めた人間だ。
だから、夢を追う人間には無責任でも背中を押す。
時間は限られている。一生でやれることは定量だ。

その中でやれることをやらなければ、おれのように何をすべきかわからない人間が出来上がる。そういう人間は得てして疲れている。疲労の最中にいて空を見上げるふりばかりしている。
足下が不確かな恐怖にいつも足下ばかりを見ている。

だから、前を向いている人間の持つ光に弱い。
道しるべになるような気がするからだ。
その光で満たされていたいだけなんだ。
おれは何も出来ないから誰かに何かを託したいんだろう。

彼女に返信をした。

「相談って歌のことだろ? いいよ。会おう。今日でもいいよ」

すぐに返信があった。
それで結局今日の夜会うことになった。

互いに話すときに目を合わせない。
それはすぐに判った。
少しくらい酔わなければ互いに目も合わせられないほど、緊張している。
きっとどこかに何かを期待している。そして、警戒している。
この子をそのまま帰すのも勿体ない気がした。

だから、2人とも少しだけ度数の強い酒を飲み始めた。
何かが起こっても平気なように。

そして、おれの中で決定的なことが起こった。

彼女は今好きな歌をおれに判りやすく説明してくれた。
場所が場所だけに歌うのは憚られて彼女は歌詞を語り出した。
そして、感極まって微かにメロディにのせてしまった。

背筋がぞくりとした。

時間にすれば数秒。そうだ3秒程度のことだ。
彼女のやや掠れた高音の声がおれの中に何かを残した。
もっと聴いていたいという欲望に駆られた。

たとえば日だまりの午後何気ない鼻歌交じりにワインを飲んでいる彼女を想像してみた。隣にいるのはおれだ。
何気ない日常に彼女の歌声を響かせていたかった。

だが、その瞬間におれは彼女に手を出すことを止める決断をした。
手に入れるためには口説けばいいだろう。抱けば済むだろう。

諦めることに慣れた人間が、前に進む人間の側に長くいてはいけない。
静かにおれは彼女を絶望させる。
穏やかな人生の末路を見せるだろう。

彼女に必要なのは暖炉にある火ではなく灼熱の太陽だ。
絶えぬ情熱を注ぐ人物。
或いは目的を持たせることが必要だ。
おれにはそれは無理だ。

だから、諦めた。

おれが出来るのはこの何もない土地から彼女を旅立たせることだけだ。

終電間際で店を出て別れた。
静かにしかし、必ず前に出るように背中を押して。


あれから10年。

おれは5年前に結婚をして妻のために郊外の小さな一戸建ての家を建てた。
ガーデニングが趣味だと言っていたから広めの庭がある。
妻はのんきにCDにあわせて歌いながら草木の手入れをしている。

そんな妻を眺めておれはワインを飲んでいる。

「この人の歌好きなのよねぇ」

あの日聴いた彼女の声がCDから流れている。
彼女がプロになる後押しをしたと少しは自慢できるくらいに有名になっている。
まあ、おれの後押しなんか無くても彼女は自分の足で前に進んでいたいと思う。
だから、おれえは実際のところ関係ないといってもいい。

それでも、その声を聴く度に「ベッドで鳴かせたておけば良かったなぁ」って思うんだ。強く。だって有名人じゃん?
| 妄想文庫 | 02:16 | comments(4) | trackbacks(0) |
ささやかな
いつもどおりの時間に目覚ましがなった。
枕元にメガネがない。メガネケースに入れておいたスペアのメガネを取り出す。
時刻は7時少し前。
信じられないくらいに頭が痛かった。
やっぱり焼酎はダメだ。体質に合わないのか悪酔いをする。
二日酔いも酷い。
あと少しだけ寝ようと思った。

なんとはなしに足下を見ると客用の布団にエリコがいた。
「なんでいるの?」
「泊まっていいって言ってくれたからだけど?」
確かに昨日は一緒に飲んでいた。
3人で飲む予定が急な友達の欠席でさしで飲むことになったからだ。

「覚えてないの?」
「まるっきり。でも、なんかそんな話しをしたような?」

エリコと2人きりで会うのは初めてだった。
だからかもしれないが、いつもより饒舌にぼくは喋った。
どうにも未だに女の子と2人きりになるのは苦手だ。

矢継ぎ早に話しをしないとならない気持ちになる。
そして、飲むピッチも上がる。
まるで酔えば酔うほど面白いことが言えるのじゃないかと思っているかのように。
でも、そんなことは決してない。

ただ、その甲斐あってかエリコが楽しんでいたのはなんとなく覚えている。
ああ、そうだ。部屋に来たのも覚えている。
ただどんな流れで泊まりに来ることになったかはわからない。
この部屋で行われた一切を思い出せない。

なんか酒を作ったあとがある。
何を飲んだんだ?
エリコは下戸だ。そんなエリコに酒を出すはずはない。
じゃあ、これは自分の分だ。
店を出た記憶も曖昧なくらい泥酔しているのにさらに酒を飲んだのか?
それじゃあ二日酔いにもなる。

そんなことより手を出したかどうか考えてみる。
自分の服装は昨日着ていた服のままだ。
つまり酔いつぶれてそのまま寝たと考えるのが妥当だ。
妥当?
本当にそうか?

「なー」
「なに?」
「この調子だからたぶん何もしないで寝たと思うんだけど、どうかな?」
「え? 本当に覚えてないの?」
「え? 何かしでかしたの?」
「……ことには及んでないから安心していいよ」
「あのさ。そのちょっとした間はなに?」
「うん? 胸は揉まれたから」
「は? マジで?」

エリコは所謂巨乳だ。
それを触ったのに記憶していないとはもったない。

「胸揉んでいるうちに鼾掻いて寝始めた。中途半端に盛り上げてね」
「え、あ、すみません」
「まあ、いいけどね」
「ははははは」

苦笑いを残して目を覚ますためにシャワーを浴びる。
メチャクチャな展開だ。
きっと口説いたに違いない。
何がどうしてどうなったのかまるで分からないが、彼女が語ったことは間違いないだろう。

手早く着替えて会社に行く準備だけは出来た。
部屋に戻るとベッドでエリコが寝ていた。
「襲うぞー」
少しだけ本気で、それでいてやる気のない声でそう言う。
反応がないから近づいた。
するりと首筋に腕がからみついてきた。

一瞬抵抗して、それが無駄で無粋だと思って力を緩めた。

唇を重ねる。
朝からするようなキスじゃない濃厚な口づけをする。

「これも覚えてない?」
「残念ながら」
「もう少ししたら出なきゃいけないよね?」
「うん。もの凄く休みたいけどね」

2人で家を出て駅で別れる。
彼女は今日は仕事が休みだからブラブラしてから家に帰るそうだ。

別れてからも唇に感触が残っていた。
思わずにやける。

別れてからしばらくしてメールが届いた。

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件名
さっき

本文
キスしたときに口紅つけておいた。

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とっさに唇を拭う。
指にピンク色の口紅がついた。
なんとなく人の視線がこっちに向けられていたのが分かった気がする。

ささやかな復讐なのだろうか?
女ってやっぱり怖い生き物だ。
| 妄想文庫 | 23:58 | comments(4) | trackbacks(0) |