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side B25
JUGEMテーマ:小説/詩

 「明後日は来るの?」
12月22日の深夜にミツルはサキからそう尋ねられた。
「残念ながらその日は予定があるんだよ」
「そう。気を遣って損したわ」
「似合わないことするからそうなるんだよ」
「そうね。あんたに気を遣うなんてバカだったわ」
「そう自分を責めるなよ。おれだって予定があるなんって思ってもみなかったんだから」
おどけた調子でそう言うといつものようにウオッカアイスバーグを一口含んだ。
「確かに予定があるあんたが悪く思えてきたわ」
「助けなきゃ良かった。ところで、24日に来ると何かあるのか? プレゼントとか?」
「そうね。時間を潰すことができるなんてプレゼントがあるけど?」
「それは今ももらってるだろ」
「じゃあ、ほぼ毎日プレゼントを与えてるってことになるのかしら?」
「それなりの対価は払ってるだろ」
「そうね。それなりの対価よね。それなりの」
サキは「それなり」の部分の語気を強めてそう言った。

「サキ」
マスターの穏やかなバリトンボイスがサキをたしなめた。
名前を呼んだだけだが含まれる音の響きにそれがあった。
掛け合いはいつものことだが、新しい客が居るときにこの掛け合いは内輪すぎて引く可能性が高い。
だから客が誰もいないとは放置するが新規の客が居るときは、適当なタイミングで嗜める。
サキが叱られるとミツルは引く。
ミツルの察しの良さがわかっているからマスターはサキを嗜める。
それで十分だった。

ミツルはそれを契機に帰ることにした。
なんとなくタイミングとしてはそれがベストのように思えたからだった。
それに下手にサキにつっこまれるのを避けるためにはそれでいいように思えた。

そして、クリスマスイブになった。
ミツルは片瀬江ノ島の駅を降りた。
ちょっと張り切りすぎているくらいの女がいて声をかける。

「よう。ナタリア」
「おはようございます。その呼び方辞めてくれませんか?」
「ははは。そんなことより服装若干クリスマス仕様だね。似合ってるよ」
全体的に黒っぽい色が流行の中でもこの日だけは赤が女子の間では利用される。
そういうのは嫌いじゃないが好きでもなかった。
「ええ。せっかくですし」
「しかし、連休の中日だってのになんで片瀬江ノ島はこんなに人がいるんだ? 8割は江ノ水目当てか?」
「でも、江ノ島にも行けますよ?」
「そうだけど。まあいいか。とりあえず、飯に行こう。帝国ホテル上がりのシェフがやってる安いフレンチが近くにあるからそこに行こう」
「はい!」

片瀬江ノ島の駅から近くにその店はあった。
ナタリアは本日のランチを注文してミツルは魚のランチにした。
クリスマスらしく本日のランチは鶏のもも肉のコンフィだった。
魚は鱈のムニエルでケイパーを使ったバターソースが特徴の一品だった。

「今日は限定でグラスシャンパンもご用意しています」
「じゃあ、それを二つ」
ミツルはなんとなく注文してから少しだけ流れが問題のある方向に流れ出してきているような気持ちになった。

クリスマスイブに狙ってもいない女と二人で過ごす羽目になったのは、11月の下旬に世界大会で優勝したバーテンダーの店になんとか祝いに行った後ほろ酔い気分でばったりナタリアこと成田アヤに会ったことに起因する。

「あれ? 剣崎さん?」
「おーナタリア。これからスクヘブか?」
「どうしようかなぁって思って。ちょっとお腹も空いているけど今日シンゴさん休みでしょ?」
「そうか。じゃあ、なんかそこらの居酒屋に付き合ってやるよ」
「え? いや、大丈夫ですよ。リンガーハットとか行きますし」
「なんだよ。じゃあ、イタリアン行こう。パスタにしろ。パスタに」
アヤは押し切られる形でダイニングバーに近い形態のイタリアンに二人は行った。

ミツルはワインをボトルでオーダーしチーズの盛り合わせでダラダラと飲み始める。
始めてくる店でミツルと二人きりなことにアヤは少し緊張していた。

「適当に飲んでいいよ。まあ、常連面できるほど来てる店じゃないから、その辺は察してな」
「え。あ、はい」
上司と部下という感じに見えるかもしれない。
必要以上に敬語のアヤとフラットすぎるミツルは見た感じは恋人でもおかしくないが、空気感が上下関係を醸し出していた。
もちろんアヤが一方的にその空気を作っているのだが。

店内のディスプレイがどこかクリスマスムードになっているのに気がついてアヤが口を開いた。
「すっかりクリスマスムードですね」
「そうだなぁ。まあ特に関係ない行事の一つだけどな」
「今年も女子会ですよ。あれに出るとなんか負けた気がするんですよねぇ」
「そうなのか? じゃあ、なにかするか?」
「え? あ、えーと、じゃあ、お願いします」
少し照れたようにアヤはそう言ったのでミツルは少し訝しんだ。
「じゃあ、なにかしたいことはある?」
「えーと、水族館とか行きたいです」
「水族館?」

このときミツルは自分の言葉の足りなさを呪った。
「じゃあ、いつもの店で常連集めて何かするか?」と別口でパーティーを開くことを想定したつもりだったが、このタイミングで男が女を誘うとなればデート以外のなにものでもない。
しかし、気付くのが遅かったのとアヤを傷つけないようにするためにミツルは「水族館ねぇ。江ノ島水族館だと月9でやってたからなんかあったような?」とはじめからそのつもりだったように演じた。

そして現在に至る。

フルートグラスのシャンパンを一口含むときに天を仰いだ。
がっちりクリスマスの展開になりつつある。
昼だからさすがにムードはない。とは言いつつもこの先の展開を考えれば、相手が自分のことを心底嫌いじゃなければ、普通に急造カップルのできあがりまで行く自信はある。
それ故にミツルは敢えて店の予約をしなかったし、意味がこもらないようなプレゼントを選んだ。
不機嫌にならないように上機嫌にならないように努めた。
クリスマスイブに何をしているのか。

新江ノ島水族館は不必要に込んでいた。
当たり前だ。クリスマスで特殊仕様のイベントであふれかえっているし、八景島よりも安くてフレンドリーだ。庶民派水族館といえるのかもしれない。
すし詰め状態の水族館でも幸せムードが空間を支配していた。
それ自体は悪いことではないがミツルにとっては少し疲れる空間だった。
幸せになれていないとかそういうことではない。ただ、まわりの空気に圧力のようなものを感じた。
幸せを演出するというような感覚を感じていた。
幸せは悲しみと違って演出でいくらでも生み出せる。だからこの空間の演出された幸せの雰囲気に圧力を感じていたのかもしれない。
ミツルはぼんやりとクラゲの入っているグラスのツリーを眺めていた。
多くの人が写真を撮っている。アヤも携帯で撮影していた。
クリスマスカラーのライトに照らされたクラゲがゆらゆらと大型水槽で揺れていた。
喜んでいるカップルを画面越しに見ているような気分で眺めていた。

こういうところに来るとミツルは世界から隔絶された気分になる。いや正しくは自分から世界に線を引く。
逃げているだけかもしれないが幸せになる資格を拒絶している。いつか来る不幸を恐れているだけと言われたらそれまでだがそれでもミツルはそれを許容しがたいと考えている。
純粋にクリスマスの空気を楽しんでいるアヤを漠然とした不安とちりちりと焦がすような嫌悪を感じている。

繰り返す。ただ繰り返す。
「嫌うな。嫌うな。嫌うな」
繰り返す。ただ繰り返す。呪文のように。

「剣崎さんもどうですか?」
「ああ……いいよ。おじさんは人ごみ苦手だから」
「きれいですよ」
「……そうか。じゃあ見に行くか」

やや押し切られる形でミツルはクラゲやイルカのショーを見ることになった。
はしゃぐアヤを見て普通にかわいいこだなと思ったし、当たり前のクリスマスの幸せを受け入れていた。

夕方になり二人は水族館を出た。
「江の島行きませんか?」
「寒いし遠いからなぁ」
「せっかく来たんですから」
「うーん。まあ、せっかくだしな」
結局ここも押し切られる形だった。

紫色のイルミネーションにライトアップされたシーキャンドルを下から眺める。最速で20分待ちだといういうことで寒さも手伝い下から眺めるだけにした。
西側が赤と青のグラデーションに彩られカップルや家族が写真を撮っていた。
当たり前のようにある温かい光景で心が揺さぶられる。
塔の上のほうを見上げる。アヤは登りたかったかもしれないがさすがにそこまでロマンチックなことはできなかった。
ただでさえ流されているというのにこのままどこまで自分は流されていくのだろう。
ミツルはぼんやりとこのままいつものように流されて付き合いことになるのだろうかと考えていた。
アヤのような普通のいい子なら仮にそうなったとしてもうまくやっていけるのではないか。
こうした風景の中に自分も溶け込めるのではないか思った。

そのときある光景が浮かんだ。
そして、サキの顔が浮かんだ。
次にマスターとシンゴが浮かんだ。

サキだけなら自分の恋愛感情を疑うが店を最初に思い出したことで自分の流儀を思い出した。
そうだ。バーでの恋愛はご法度だ。
だからこの先は自分で流れを変えようと決めた。
少しだけ幸せに酔ったのかもしれない。しかも悪酔いだ。

「寒いし腹も減ったな。そろそろ行こうか」
「そうですね」

それから二人で居酒屋に行く。
Scrap Heavenに行くかという話もあったが今日は違う店にした。
普段よりも気を遣い過ぎていたのかミツルは泥酔した。

目を覚ますと見知らぬ天井があった。
喉がひどく傷む。
「おはようございます」
アヤの声だった。

ホテルか!?

アヤが上から覗き込んでいる。
「どこ?」
「覚えてないんですか? カラオケですよ」
「うん?……ああ、そういえば、なんかが上手いからとかで行くことにしたんだよな」
「ええ」
「どれくらい寝ていた?」
相変わらずアヤを見上げながらしゃべっていることが不自然だがどのタイミングで膝枕から脱出するべきか悩んでいた。
「1時間くらい……」

嘘だろう。

「ごめん。てか、ありがとうかなぁ。でも、やっぱりごめん」
「気にしないでください」
「気にするわなぁ」
そう言ってミツルは起き上がった。
「本当にすまなかった。今何時だ?」
「5時半くらいです」
「うわー。マジで今度穴埋めす……るわ」
「いや、いいですよ。楽しかったし、好き勝手に歌ってたんで」
「そう言われてもなぁ」
「じゃあ、今度スクヘブで1杯ください」
「……別の店にしないか?」
何かを感じ取ったのかアヤは「そうですね。じゃあ美味しいものごちそうしてください」と、少しいたずらっぽく笑ってそう言った。
少し高くつきそうだが、店でこの展開を詮索されるくらいなら安いものかとため息を吐き出さずに笑顔を作って「まあ、そんなに高い店じゃないけどそれで許してよ」とおどけてそう言った。

| Scrap Heaven | 02:21 | comments(1) | - |
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ほむほむ。
ミツルさんったら…。
| れいら | 2011/12/31 10:55 AM |